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第51回

ひとSTORY

和田名保子さん[オカリナ・ケーナ奏者]

和田名保子さん[オカリナ・ケーナ奏者] 和田名保子さん[オカリナ・ケーナ奏者]

幼い頃から笛の音色に魅了され、導かれるようにリコーダー、フルート、オカリナ、ケーナと笛との出会いを重ねる人生。

今回は、オカリナ・ケーナ奏者の和田名保子さんへインタビュー。

生い立ち

大分県別府市生まれ。父の転勤で、大分県内を中心に、北九州から東京まで、引越歴は十数回。二年おきの転校で、小学校から高校まで、出会っては別れの繰り返し。寂しい思いをしてきたが、結果的には、豊後高田、北九州、津久見など各地に第二の故郷を持つこととなり、今では、その土地ごとにコンサートを楽しみに待っていてくれたり、プチ同窓会まで開いてくれるなど、青春の思い出に会える贅沢な演奏旅行になることも多い。

音楽との関わり

幼い頃の日曜夜の恒例行事は、ホームコンサート。音楽好きの父と兄のギターに合わせて母と当時の流行りのフォークソングや歌謡曲を歌い、時にはリコーダーを吹いた。我が家のテーマ曲は、本田路津子さんの「風がはこぶもの」。音楽や笛が好きになったルーツは家族。昭和50年頃は、学校からリコーダーを吹きながら帰る小学生は多かったが、ご多分に漏れずその一人だった。四年生の敬老の日に、地域のお年寄りを学校に招いて音楽会をすることになる。学年の出し物は、リコーダーアンサンブルで「会津磐梯山」。本番間近のある日の放課後、友達と歩くテンポに合わせて練習しながら帰っていた。すると、通りがかりのおばさんが「上手ねー」と声をかけてくれ、拍手まで。思わぬ歓声に、嬉しくて嬉しくて、二人ともますます調子が上がり絶好調。お客様に拍手をいただく時の快感は、この時の経験が始まりだったような気がする。そして、中学、高校でも迷わずブラスバンド部へ入部。もちろんフルート一直線。朝練、昼練、放課後の練習。教室より部室にいる方が、楽しかったし、長かった気がする。国語、数学、理科…今でも言葉を聞くだけで、あの懐かしい部室に逃げこみたくなる気分に。そんな様子を母から聞いたピアノ講師の従姉妹が「そんなにフルートが好きなら、フルートで大学に行ったら?」とアドバイスをくれた。笛好きと音楽大学がつながるなど、考えもしなかったので、「そんな道があるのか!」とまさに朗報。ただ、ピアノは音大受験で必須科目の為、演奏ができる楽器がフルートだけでは無理。そこから、通常と比べると十年遅れの赤いバイエルの猛特訓が始まった。高校二年の夏休み、時間を見つけては従姉妹の家に通いレッスンを受けた。上達ぶりはさておき、レッスンに対する熱心さと集中力に従姉妹は舌を巻いていたようだ。一部始終見ていた母は、小遣いをはたき、父には内緒でピアノを買ってくれた。家に大きなピアノが届いたら、内緒にはできなくなったが、それを見て父が何を思ったのか、怖くて未だに聞いたことはない。実は、それまで我が家にはピアノがなく、家での練習は、バイエルの付録の紙鍵盤。そんな様子を知っていた父も、ピアノを前に反対は出来なかったのではないかと思う。ただ、音楽好きで子供思いの父も、娘が進路で音楽を選ぶことには猛反対。それでも、受験直前に許しをもらい、なんとか山口芸術短期大学音楽科の門をくぐることが出来た。そんな父も、今ではコンサート会場に毎回駆けつけてくれている。二年間音楽を学んだ後は、おとなしく大分に戻り、父の勧めでOLとなった。証券会社のOL生活の始まり。同僚とお茶をしながら男の子の話題でワイワイガヤガヤ。テニスにゴルフ、映画に旅行と、絵に描いたような花のOL生活は、それなりに楽しかったが、気持ちの底でくすぶっているものがあった。志し半ばで無理やり自分を納得させてしまった感じ、大切な何かをどこかに置き忘れたふりをしている感じ。胸いっぱいの息を残したまま、曲の途中で演奏を止めてしまった感じ。そんな、「気持ちのアクセル」を踏みきれていないもどかしさをずっと感じていた。そんな気持ちの慰めになるかと、OLをやりながら、大手音楽教室のフルート講師を始める。その当時は、プロの演奏家を目指すことなど思いもしなかったが、音楽講師は、慰めよりむしろ演奏への渇きを、より一層強く感じさせるとこになった。ある日、好きなピアニストのコンサートで、素晴らしい演奏を聴いていたら、突然いろんな感情が湧きあがってきた。住み慣れた大分に安穏と暮らすもどかしさ、手応えない音楽を続ける自分への罪悪感、焦点の定まらない人生への焦燥感が、突然強く共鳴し始めてきたのだ。今までの自分の殻を内側から破る決心がついた瞬間。まずは脱大分、そして脱家族。早速、拠点を福岡へ。基盤もツテもない始まりだったが、気分は爽やかだった。人生初経験のアルバイトは、大手とんかつ屋さん。胡麻を小さなすり鉢に入れたり、、、。そんなことさえ楽しく、ウキウキした。生活が落ち着いた頃、レストランでのフルート演奏のオーディションを受け、無事に合格。音楽演奏で収入を得ること、つまりささやかながらプロとしての演奏がスタートした。プロフィールの「和田名保子 福岡在住」も、この時からが始まり。

オカリナ/ケーナとの出会い

子供の頃は家族で時折ハイキングに行く程度で、特に自然が好きというわけではなかったが、福岡で暮らし始めた頃、友達に誘われ、キャンプやバーベキューに行く機会があった。すぐに、自然の中で過ごす心地よさを感じ、新しい福岡の生活で、身も心も解放されていたことも大きかったと思う。その心地よさの中で、無性に笛が吹きたくなった。でも、フルートを山のキャンプに持っていくのは、ちょっと心配。何か代わりになるものはないかと考え、なぜかストロー笛を思いつく。道中の店で、ストローと、ひと束の線香を買い、颯爽と山に向かった。山に着くと、早速ストロー笛の作成に取り掛かった。端をハサミで切ってリードを作り、火のついた線香で、慎重にストローに指穴を開ける。それだけで、笛の完成。ところが、吹いてみると音は出たものの、あまりの音程の悪さに、かえってストレスが溜まってしまった。山から帰る道すがら、ストロー笛より優れた楽器はないものかと、楽器店に立ち寄り、そこで出会ったのが、オカリナ。土の笛の優しい音色が心地よく、山で吹くと小鳥も一緒にさえずり、自然と一体になった。そして、オカリナを吹くといろんなイメージが広がり、これまでの楽器ではできなかった世界を体験した。今、思うと、あの時のストローの音程がちゃんとしていたら、もしくは、篠笛のことを思いついていたら、今頃は篠笛奏者だっただろうか?そういう意味では、あの時のストロー笛に感謝である。オカリナと出会ってからは、フルート演奏の機会があると、一曲だけオカリナ演奏を試してみた。すると、それまでの空気が一瞬で変わることに気づいた。お客様からも「その楽器はなんですか?」「オカリナ、私も持っています!」「教えてください!」と反響があり、徐々にフルートとオカリナの演奏の割合が変化してきた。気持ちもオカリナに傾き始め、自分の中でオカリナはフルートの代理楽器ではなく、オカリナこそが自分の気持ちを委ね、自らを表現できる楽器であることに気がついた。演奏家としてもフルート奏者ではなく、オカリナ奏者として活動していくことを心に決めた。それから一年後には、今度はケーナとの出会いがあり、ケーナにもオカリナとは違う新たな楽器の魅力を痛烈に感じた。緻密でメカニカルな作りのフルートと違い、オカリナもケーナも自然の素材でできたシンプルな構造の楽器。指のはらで指穴を直接感じ、吹き込む息のスピードと量をイメージし、コントロールすることで、音楽を生み出す。自分の心に浮かんだ情景がメロディになり、そのメロディを身体からそのまま発信している、そんな感覚があり、人が自然体で向き合える楽器だとも感じた。オカリナもケーナも、自分の身体と心、そして魂までも解放してくれた。

作品づくり

オカリナ、そしてケーナで解放されてから、曲が生まれ始めた。心に浮かんだことが次々にメロディになり、オカリナやケーナを通して表れていく。それは絵画を見たり、自然を感じたり、本を読んだり写真を見たり、そんな時に湧き上がる感情が色々なメロディとなり生まれてくる。向こうから語りかけてくれる感じさえする。

オカリナへの想い

演奏することが「祈り」になるような演奏家になりたい。また一般的にオカリナは、「癒し」「牧歌的」というイメージだが、それに限定されず、時には「力強さ」や、「勇気を与えてくれる」ようなものであったりと、イメージ次第で包容力の大きい、奥深さや広がりのある楽器だと思う。オカリナが「自由に演奏できる、心のままに演奏できる」楽器と言われる所以である。

海外演奏

海外演奏の経験は、中国、台湾、韓国、スペイン等で。中国は、大使館での演奏。台湾はオカリナフェスティバルのゲスト出演。スペインでは、1614年伊達藩の支倉常長ご一行が慶長遣欧使節の際に立ち寄ったコリア・デル・リオ(セビリア南方)という、日系の子孫が現在も600人ほど暮らしている小さい村で、「その方々に日本の曲を」というテーマのコンサートに出演。スペインでストリートで演奏する夢もその機会に実現した。現地の体験にインスパイアされた曲も数々生まれ、国は違っても同じようにちゃんと伝わる手ごたえを感じ、さらに別の国でも実感できたらと願う。

リリースCD

「月の旅人」(2000年)、「月伝説」(2004年)、「雅天空」(2006年)、「和韻」(2011年)、「月と大地」(2012年)、ベストアルバム「十二ひとえ」(2016年)、「esprit」(2017年)、ライブアルバム Full Tracks」(2018年)、「月の雫」(2018年)他

これから

毎年行っていた自主コンサートは、2018年に「自主公演20周年記念コンサート」をみらいホールにて盛況のうちに終え、2019年からは、より手渡しで伝えられるコンサートを開催。またレゾネットアンサンブルユニット「雅天空」、女性デュオユニット「奏kanade」、書家の悠杏、俳優の岩城朋子との書、演、笛のユニット「博多女社中」で活動中。各地のオカリナ/ケーナファンの呼びかけに応え、またオカリナ/ケーナの更なる普及を目指し各地でライブを展開中でもある。

インタビューを終えて

和田名保子さんの演奏は、力強さと華があり、今まで聴いたことのないような魂を揺さぶられるオカリナの音色である。ぜひ、初めての体験として聴いていただきたい。

2020.3.26 掲載